現行の中国の商標法第63条の中に懲罰的損害賠償制度が設けられています。
悪意により商標権を侵害し、深刻な情状がある場合には、本条に定められた賠償額の1倍以上5倍以下の賠償額を適用されます。この記事では、実務上よく見られる「悪意」の類型について、ご紹介したいと思います。
無断で他人の登録商標を使用し、他人の商品に偽装する悪意
一つ目は、無断で他人の登録商標を使用し、他人の商品に偽装するものです。このように明らかな模倣品である場合、過失による権利侵害の可能性は低いと思われますので、悪意があると認定されます。
例えば、中国の銘酒ブランド「五粮液」に関する商標侵害案件において被告である個人、徐氏が経営する食品と酒類の商店は、偽物を本物の「五粮液」と偽って販売しさらに、無断で店の看板に「五粮液」という文字を使用したため、行政処罰を受けました。徐氏本人は、登録商標を盗用した偽造品の販売の罪で、裁判所に懲役刑を言い渡されました。
裁判所は、徐氏の前述商標侵害行為の目的および継続時間の長さ等を考慮し「徐氏が知的財産権侵害を業とする」と認定し、徐氏に対して懲罰的損害賠償を適用するという決定を出しました。
関連の他商標の把握および使用の回避を怠った悪意
二つ目は、侵害者が侵害した商標の商品と深く関わった経営者である場合、悪意があると認定されます。その理由は、侵害者は侵害した商標の商品と深く関わった経営者として、当該商品における他人商標を把握しており、それと類似したものを避けるべき義務があり、たとえ侵害した商標が関連公衆において知名度が低い場合でも、侵害者はその存在を知るべきであり、自発的に回避する義務があるというものです。
例えば、「鄂爾多斯」商標の侵害案件において、裁判所の審決は、被告の立場から被告の悪意を強調し、『被告は原告と同業の経営者として、原告の登録商標「鄂爾多斯」の知名度を知りながら、そのネットショップにおいて長期間それと酷似した標識を使用していたことから、明らかに悪意があり懲罰的損害賠償を適用する』との意見を述べました。
高い周知性のある商標にただ乗りする悪意
三つ目は、関連公衆が周知している商標に対して、経営者はそれと類似した商標の使用を避ける必要があります。もし他人の知名度の高い商標の存在を知りながら、それを回避するどころか大量に、かつ長期間に渡りそれと似た標識を使用し続ける場合、悪意があると認定されます。
例えば、中国の有名なスマートフォントブランド「小米」に関する商標権侵害案件では、被告は、原告の登録商標「小米」等と類似した商標90件余りを出願しただけでなく、それらを販売店の目立つ位置で使用していました。さらに原告の登録商標に類似したものをWeChat公式アカウントとして開設し、自社の家電製品の宣伝をしました。
被告が出願した商標の一つである「小米生活」は、不正出願で無効の宣告を受け、裁判所は審理後、『原告の商標「小米」の高い知名度を認め、この状況下で被告の前述侵害行為の悪意が明らかであり、原告の良い評判が損なわれたため、処罰を強めるべきだ』と認定し、懲罰的損害賠償の適用を決定しました。
懲罰的損害賠償の適用を回避するには何に注意すべきか?
要するに、懲罰的賠償制度を的確に運用し、悪意による商標侵害行為を効果的に規制するため、悪意があるか否かを認定する際は、侵害された商標の権利状態、知名度、侵害者の身分、侵害行為の目的等を総合的に考慮しているようです。