

商標代理機関(代理事務所)がその業務上の優位な立場を利用して、他人の商標を冒認出願することで利益を得て、商標・市場の秩序を乱すことを防止すべく中国商標法第19条第4項では商標代理機関は第45類[類似群4506(法律サービス)]の役務に限り商標を出願・登録できるように規定しています。しかし中国の実務においては、商標代理機関が関連会社等の名義を借りて、同条項の規定を回避するケースが見受けられます。
このような場合、権利者が異議申立や無効審判を請求する際、中国商標法第19条第4項を主張できるのでしょうか?事例に基づいて検討してみましょう。
実際の事例
上海A社と上海B社(以下、異議申立人)は、深センC社(以下、被異議申立人)が出願した「易企創」商標(以下、被異議商標)に対して異議申立を提起しました。異議申立人は「被異議商標は自社が先に使用し、高い知名度を獲得した『易企創』商標に対する不正取得である」と主張しましたが、十分な証拠を提出できなかったため商標局に認められませんでした。
一方で、異議申立人は「被異議商標が商標代理機関による代理業務外の出願、すなわち、『商標法』第19条第4項に違反した」という点も主張しました。しかし、被異議申立人が届出を経た商標代理機関ではなく、また、異議申立人が提出した証拠のみからは被異議申立人が実際に商標代理業務を営んでいるとは断定できないことから、被異議申立人が同条の「商標代理機関」に直ちに該当するとはいえない状況でした。
中国商標局の判断
中国商標局の審理によって次の事実関係が明らかになりました。
まず、被異議申立人とその商標代理機関(以下はD代理をいう)は、法定代表者・監査役が同じ人物であり、両社の間に密接な関連性が認められます。
また、D代理が過去に同じ区分において、被異議商標の文字と同じ「易企創及び図形」の商標を出願し、19条4項違反の理由で拒絶された経緯があります。
前記2点及び被異議申立人が合理的な理由を説明できなかったことを踏まえ、商標局は、被異議申立人とその商標代理機関が代理業務以外の役務において商標を取得する目的を達成するため、実質的な連携行為と明らかな意思疎通があると認定しました。被異議申立人が被異議商標を出願したことの本質は、商標代理機関の実質的支配者が法律回避の目的で被異議申立人の名義を借りたことであり、中国商標法19条4項違反に該当すると判断しました。
中国商標法19条4項違反を主張するには
この案件は、商標代理機関による悪質な不正出願に対する取り締まりの厳しさを示しました。ご留意いただきたいのは、被異議申立人自身が中国商標法19条4項に規定する商標代理機関ではない場合、たとえ被異議申立人とその商標代理機関の間に関連性があったとしても、被異議商標が19条4項に違反したと当然判断できるわけではありません。不正な手段を用いて同条項を回避しようとした悪質な事情の有無を確認する必要があります。
そのため、権利者が同条項に基づく権利行使を行う際には、侵害者とその商標代理機関の経営状況、事業範囲、関連性、商標の登録・使用状況、過去の違法行為などの客観的事実を詳しく調査し、違法行為における実際の意図を確認することが重要といえるでしょう。
(北京恵利爾知識産権信息諮詢有限責任公司)