

中国の商標制度は「登録主義」を採用しています。商標法第3条に基づき、商標局の審査を経て登録された商標は「登録商標」として商標専用権が認められ、法律による保護を受けることができます。予め、商標権を取得していれば、権利侵害を発見した際の異議申立てや無効審判といった行政手続において、立証負担が比較的軽くなるというメリットがあります。
しかし実務上は、未登録商標に対する権利侵害行為も頻繁に発生しています。こうした事象に対し、商標法では救済規定が設けられています。本記事では、具体的な事例を通じ、先使用の未登録商標が商標法第32条後段(「商標登録出願は・・・、他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で抜け駆け登録してはならない。」)を主張する場合、どのような証拠を重点的に収集すべきかを解説します。
実際の事例:商標「Relingo」
2022年11月22日、重慶A社は第9類「ダウンロード可能なコンピュータプログラム」等の商品を指定して、商標


(以下「本件商標という」)を出願しました。本件商標の出願公告後、米国B社が異議申立てを提起しました。B社は、



が自社開発した「Chromeブラウザ向け翻訳・単語学習プラグイン」であり、出願日前から関連商品において使用され、一定の知名度を有していたと主張しました。
審査の結果、B社が提出した証拠資料によってその主張が認められました。これにより、本件商標は「他人が先に使用し、かつ一定の影響力を有する商標を不正な手段で先取り登録したもの」と判断され、商標法第32条違反として登録が認められない決定が下されました。
「冒認出願」であると認定されるには?
本事例において、異議申立人であるB社は十分な証拠資料を提出し、本件商標の出願日以前に、中国国内の「オンライン外国語学習アプリ」関連商品において「Relingo」商標の使用を開始し、すでに一定の知名度と影響力を獲得していたことを立証しました。
具体的な証拠として、まずドメイン「Relingo.net」の購入に関する請求書により、ウェブサイトの開設時期が2021年であり、出願日に先行していることを示しました。また、出願日前から「百度(Baidu)」「微信(WeChat)」「知乎(Zhihu)」などの主要プラットフォーム上でプロモーションを展開していたほか、関連ユーザーによる「Relingo」の使用方法や感想、ダウンロード手順に関する投稿も多数確認されました。
さらに、提出されたソフトウェアのユーザーデータ分析図からは、運用開始以来、ユーザー数が右肩上がりに増加している実態が示されました。これらの証拠が総合的に評価され、当該商標が一定の知名度と影響力を有していると判断されるに至りました。
また、本件商標






は、その構成・デザインがほぼ同一であり、指定商品である「ダウンロード可能なコンピュータプログラム」等も、B社が先使用していた「オンライン外国語学習アプリケーション」と類似しています。これに対し、A社からはこのような「極めて高い類似性」が生じた経緯について、合理的な説明はなされませんでした。
さらにB社が提出した証拠により、A社の傘下の製品にもChromeブラウザ用プラグインが存在することが判明しました。当該製品は、ダウンロードページやプロモーションページにおいてB社の「Relingo」としばしば併記されていたことから、両社は明らかに競合関係にあり、A社がB社およびそのソフトウェアの存在を認識していたことは明らかです。
以上の事実から、A社による出願は、他人の先使用による一定の影響力を有する商標を不正な手段で先取りした「冒認出願」であると認定され、商標法第32条に違反するとの判断が下されました。
外国語略語の組み合わせが拒絶される理由
上記の事例が示す通り、商標法第32条に基づく「先使用」を主張する場合、単に権利者が対象商標の出願日前に使用を開始していた事実や、商品・役務の同一・類似性を証明するだけでは不十分です。それらに加え、関連する商品・役務において「一定の影響力(知名度)」を獲得していたことを立証する必要があります。
さらに、相手方(出願人)が「不正な手段」を用いたことを裏付ける証拠も積極的に収集しなければなりません。具体的には、以下のような要素が重要な検討材料となります。
- 当事者間の関係性: 取引関係、協力関係、あるいは親族関係などの個人的なつながりの有無。
- 競合性の有無: 同業者であり、相手方の商標を知り得る立場にあったか。
- 不当な意図の介入: 他人の商標の知名度や影響力を利用して誤認混同を招く宣伝活動を行った形跡や、権利者に対して不当に高額な譲渡料を要求した事実があるか。
このように、使用の事実、影響力、そして相手方の悪意(不正の手段)を多角的に立証することが、異議申立てや無効審判を成功させる鍵となります。
(北京恵利爾知識産権信息諮詢有限責任公司)



