1.中国登録商標と企業名との関係
中国において、企業名称は関連の法律に定められた手続きに基づいて獲得した権利ですが、企業名称登録の主管官庁で登録された企業名称は、その取得と使用が必ずしも合法であるとは限りません。
企業は無断で他人の登録商標と類似した文字を企業名称として使用している場合、不正競争または商標権侵害と認定されれば、企業名称の使用停止や損害賠償等の責任を負うことになります。
2.中国における係争の例(裁判例)
登録商標と企業名称に関わる係争について、ある裁判例を一つご紹介します。
(1)経緯
A社が持っている「登海」という登録商標(以下は係争商標という)は、植物の種等の商品において高い知名度を有しています。
係争商標の登録日より、成立日がはるかに遅いB社は、自社の会社名称の中に「登海」を使用しており、その扱っている化学肥料製品の包装と会社のウェブサイトにおいても「登海高科」(「高科」は「ハイテク」の意味で、識別性のない用語)又はこれを含んだ会社全称を使用していました。
A社はB社の使用行為が、その商標権への侵害と不正競争に該当したという理由で、提訴しました。
(2)判決
裁判所は審査を経て、以下のような判決を下しました。
B社の成立日前に、係争商標「登海」及び「登海」を含んだA社の会社商号は既に高い知名度を持っているため、B社が無断でその企業名称の中に係争商標と同一の文字を使用した行為は、意図的に係争商標の知名度に便乗しようとする、不正競争に該当するとしました。
また、その製品とウェブサイト等における使用行為が商標的使用に該当するとしました。商品の類似性において、植物の種と化学肥料の区分が商品の区分表により類似商品でないとはいえ、両者の機能、用途、生産部門、販売ルート、消費対象及び民衆の通常認識から両者の関連性が認められました。
B社の使用行為は、消費者の出所に対する誤認を招きやすい、又はA社との間に許可等の特殊な関係があるという誤認を招きやすいため、A社の商標権への侵害に該当するとしました。
このため、B社は係争商標を含んだ企業名称の使用を停止し、A社の損失を賠償すべき、との判決を言い渡しました。
3.企業にとって、何を注意すべきか
では、企業にとって、上記判例はどのような参考意義があるでしょうか?
①他人の商標の無断使用を避けること
まず、知的財産権リスクへの意識を確立し、そのブランドのプローモーション等における他人の商標の無断使用を避けること。使用したい場合、その権利者の許諾を得て、使用許諾の範囲と使用期限等について明確に定める必要があります。
②知的財産権を適宜取得すること
次に、自社ブランドの名誉を守ることを重視し、会社の発展戦略により商標出願を行い、関連する知的財産権を適宜取得すること。既に持っている知的財産権に対して、その合理的な使用と維持に留意し、権利侵害行為が発見された際には積極的に対処すること。
③登録商標を使用することに留意すること
最後に、会社を設立する際、直ちに商号を商標として出願することで保護すること。また、不正競争または商標侵害のトラブルに巻き込まないよう、正しく会社名称と登録商標を使用することにご留意ください。