中国の名門・清華大学を悩ます商標権侵害、オンライン講座への商標無断使用で約5,000万円の損害賠償請求

中国・清華大学の商標問題


中国の理系大学の名門である清華大学がこのほど、オンライン講座に自校の登録商標である「清華」を無断使用されたとして、訴訟を起こした。

日本でも大学をはじめとする学校法人は積極的に校名や略称の商標出願を行っており、近年では大学発ベンチャーの増加や地域産業とのコラボレーション活性化などの要因もあり、出願区分も多岐に亘っている。しかし、少なくとも報道ベースで大学名の商標権侵害に関する事件を目にした記憶は殆どない。では、今回の清華大の事件はどのようなものなのだろうか。

「使えるビジネス講義、毎日7分間清華MBAのコンテンツを聴くコース」
問題になったのはオンライン講座に使用されたこのキャッチコピーだ。

2019年1月16日付の中国知識産権報によると、清華大は、この広告に目立つ形で「清華」の商標が使用されていることが清華大の登録商標に対する侵害にあたり、また不正競争行為を構成していると判断。2018年8月に北京市海淀人民法院に訴えを起こし、被告の個人1名・法人2社に対し、侵害行為の差止めと損害賠償310万元超(約5,000万円)を求めた。なお、清華大は1997年に教育、研修をはじめとする第41類の複数の役務を指定役務として「清華」を商標登録し、当該の商標権は現在も存続している。

前述のキャッチコピーは、本件の被告の1社である鳳凰愛聴(北京)信息技術有限公司がモバイルサイト「鳳凰FM」上で運営していたオンライン講座に使用されていたもの。清華大はこれに対し、「清華」は教育サービスの提供者たる清華大の略称であり、当該のキャッチコピーはこのオンライン講座と清華大の間に特定の関係があると消費者を誤導しやすいと主張、また虚偽若しくは誤解を招く商業宣伝行為の疑いがあり、不正競争を構成する疑いがあると主張した。またそれだけではなく、「鳳凰FM」及び関連サイトは配信範囲が広範で売上高も大きいことから、清華大に巨大な損失を与えたとも主張。なお清華大によると、鳳凰愛聴はインターネット放送局の運営者だが、同じく被告となっているコンテンツ制作者及びその経営する会社が「清華」商標についてライセンスを得ているかなどの審査義務を怠ったため、連帯責任があるという見解である。

これに対し被告の三者は、清華大が保有する商標権については何ら異議を唱えなかったものの、コース名に「清華」が含まれていることが商標的使用にあたり、権利侵害を構成するという点については否定した。コンテンツ制作者である路被告は、当該のキャッチコピーは「鳳凰FM」でのみ使用されているもので、さらに自らが提案したものではなく「鳳凰FM」が修正したものと主張。それに加え、路被告自身が清華大MBAの修了生であり、コンテンツ内の司会進行も自らが務めていたことから、ここで使われていた「清華」はあくまで事実を記述したものに過ぎず、商標的使用にはあたらないだけでなく不正競争も構成しないと述べた。

また、路被告が経営する会社も同様に被告となっているが、同社は当該のコンテンツの内容と清華大学の関連するコース内容には大きな差異があるため、混同を生じる状況にはなく、不正競争も構成しないと主張している。

鳳凰愛聴社は、商標の字体の不一致を主張。さらに、サイト内で「清華」の文字が出たのはタイトルと司会者の紹介欄のみで、コース照会の画面には「国内トップのビジネススクールと全米ランキング第1位のMBAの授業内容を凝縮し、制作者の経験を織り込んで制作したコース」と記載しており、清華MBAについては一切触れていないという。さらに、路被告やその会社と同様、消費者が当該コンテンツを清華大の授業内容であると誤解することはないと主張した。

本件は現在審理中であるため、どのような判決が下されるか定かではない。ただ、清華大はここ数年の間にも教育関連の企業に「清華」の名称を無断で謳われるなどの事件が頻発しているため、ここでどう出るかは注目されるところだ。

なお冒頭で、日本では大学名の商標権侵害事件をほぼ耳にしないと述べたが、誰でも参加できるような動画配信サービスなどが隆盛の昨今、知的財産権に関する意識の薄いユーザーが許諾なしに大学名に係る商標を用いたコンテンツを配信する可能性も考えられないわけではない。大学側のモニタリング体制もより一層問われることになるだろう。

(日本アイアール A・U)

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