

はじめに
中国の商標制度は登録主義を採用しており、実際に使用されていなくても商標登録は可能です。その一方で、商標の使用を促進し、不使用の商標を整理するため、不使用取消審判(不使用取消請求)の制度が設けられています。
従来の実務では、申請者が取消対象の商標について簡易な検索などを行うことで、不使用取消審判請求を比較的容易に提出できており、挙証責任も軽い傾向にありました。しかし現在では、中国商標局が申請者に課す挙証責任を強化し、あわせて信義誠実の原則の適用をより厳格にする動きが見られます。
2025年に入ってからの中国商標局の対応
2025年以降、中国商標局は多くの不使用取消審判に関する補正通知書を発行し、申請者や弁理士に対応を求めています。これらの補正通知書の内容が段階的に強化されており、最初は「取消対象商標が継続して三年間使用されていないことに関する初歩的な調査資料」の提出を求めただけでしたが、その後「初歩的な調査資料の真実性・正確さ・完備さを保証する」ための承諾書及び「申請者の身元、その他の重要事項を隠蔽しないことを保証する」ための承諾書が追加されました。さらに、「不使用取消審判案件に関連する新規出願或いは拒絶査定の不服審判請求に関する情報」の開示も追加で要求されました。
従来の緩やかな挙証責任と比較すると、現在では申請者が商標局の要求に応じて、指定されたプラットフォームで指定されたキーワード検索を行い、定められた形式で提出しなければなりません。場合によっては、現地調査を行い、調査報告書を提供しなければなりません。これは申請者に課される挙証責任の負担を大きくするものです。
業界内で議論が活発に
このような変化を巡り、業界内で議論が活発になっています。
一部の意見では、不使用取消審判が先行類似商標を容易に排除できるうえ、申請者側の挙証責任が軽く、費用も比較的安価であることから、請求件数が大幅に増加したと指摘されています。また、不使用取消審判は多くの場合、新規出願や拒絶査定不服審判請求における審査中止申請と関連しており、その増加は審査案件の滞留を招いています。さらに、当事者双方の挙証責任の不均衡が、悪意による不使用取消審判請求を誘発しているとの見方もあり、確かに何らかの対策が必要だという意見も出ています。
一方で、登録商標を合法的、有効に使用することが商標所有者の義務であり、その使用を証明することの挙証責任も商標所有者側にあるべきだとの意見も存在します。現在の状況では、初歩的な調査資料に対する要求が既に『商標法実施条例』第66条の「登録商標の取消しを請求する際には、関連する状況を説明しなければならない」という規定の範囲を大幅に超えており、「申請者の身元を隠蔽しない」という要求も、『商標法』第49条の「登録商標が正当な理由なく継続して3年間使用しなかったときは、如何なる単位又は個人も、商標局に当該登録商標の取消を請求することができる。」という規定に矛盾するように見えるとの指摘もあります。
悪意ある不使用取消請求への解決策は?
中国には膨大な数の登録商標が存在し、その中には実際に使用されない商標――たとえば、防御目的で登録された商標や冒認商標、同一の出願人による大量登録(将来の転売を目的としたもの)などが多く含まれています。これらは新たな商標出願の障害となり、商標資源の有効活用を妨げる要因となっています。このような状況を改善するためには、不使用取消審判請求を積極的に活用し、商標資源の枯渇を抑制するとともに、商標所有者に対して使用義務の履行を促すことが重要です。
一方で、悪意のある不使用取消請求への対策も不可欠です。申請者側に挙証責任を課すことで、一定程度の濫用的な請求を抑制し、審査の停滞を緩和できる可能性はあります。しかし、それだけでは十分ではなく、他の有効な措置と併せて実施しなければ、悪意請求の根絶や商標所有者の保護、さらには商標資源の健全な循環という本来の目的を達成することは困難でしょう。
例えば、悪意のある不使用取消請求を行う者に対しては、ブラックリスト制度を導入して不正行為を公表し、処罰を通じて違法行為に伴うコスト(経済的・法務的などの代償)を高めるべきと考えられます。さらに、行政機関が別件の証拠資料を自主的に援用できる制度の整備や、防御商標制度の導入によって、防御目的の不使用商標を減らすことも有効な対策かもしれません。
(北京恵利爾知識産権信息諮詢有限責任公司)