【中国商標コラム】すったもんだの「蘭州ラーメン」商標登録劇、地名を含む商標は難解!

MENU

すったもんだの「蘭州ラーメン」商標登録劇、地名を含む商標は難解!?

読者の皆さんは「蘭州牛肉拉面」なるものを召し上がったことがおありでしょうか。

 

イスラム教徒も多く在住する中国西北部を起源とする牛肉スープのラーメンで、パクチーなどが加わった独特の風味が癖になる味。中国では蘭州ラーメンの店が見つからない町はまずないというぐらいのポピュラーな存在ですが、最近では日本でも人気が出て専門店も多く出店しているようです。その「蘭州牛肉拉面」の中国での商標登録問題に最近漸く決着がついたことが話題になっています。

 

2019年1月29日に中国工商出版社が検索エンジン「百度(baidu)」のアカウント上で報じたところによると、問題の「蘭州牛肉拉面」の商標は以下のもの(画像は中国商標網より抜粋)。

 

蘭州牛肉拉面の商標検索画面

 

マークを見て筆者は「牛の角?」と思ったのですが、これは職人が両手を広げて麺を長く伸ばす様子を表したものだそうで、その下に漢字で「蘭州牛肉拉面」、さらにその下にピンイン(中国語の読み方をアルファベットで表しているもの)で「Lanzhou Niurou Lamian」と記されています。

 

2019年2月2日付の蘭州晨報によると、この商標は2007年、甘粛省蘭州市が初めて蘭州ラーメンのイベントを行った際に、全国から公募して決定したもの。
同年、蘭州商業連合会が商標登録出願を行い、無事2010年3月28日から10年間の商標権が設定されました。ところが2016年10月、中国国内の某個人が、「当該商標は県級以上の行政区画である地名を用いてはならないという中国商標法第10条の規定に反する」として、無効宣告請求を申し立てました(注:中国の無効宣告請求は2014年5月施行の改正商標法から取り入れられたもので、使用禁止要件に該当することを理由とする請求の場合、請求期間の制限はなく、また何人でも請求可能とされています)。

 

これに対し蘭州商標連合会は、「地名が他の意味を有する、または団体商標・証明商標の構成部分である場合はこの限りではない;地名を用いた登録済みの商標については継続して有効とする」という10条中の規定を持ち出して反論。特に強調したのは、「蘭州という地名は牛肉ラーメンにおける独特な文化的内包を表すものであるため、単純に地名というわけではない」という点です(後段の「登録済みの商標については継続して有効とする」という内容のほうが使えそうな気もしますが、実はこれは1993年の商標法改正を前提とした話のため、2010年の登録商標には関係しません)。

 

確かに民族が混淆するシルクロードの要衝であり、その中でもイスラム文化を色濃く反映する蘭州ラーメン発祥の地ですから反論の内容も分からないではありませんが、果たしてそのような主張は通るのでしょうか・・・。疑問を覚えながら経緯を読み進めたところ、審理を行った原国家工商行政管理総局商標評審委員会は、この主張になんと同意!
しかし話はそううまくはいかず、「そこはクリアできているが商標全体としては識別力がないため登録商標とは認められず」という理由で、当該商標は無効とされてしまったのです。2017年11月30日のことでした。この期に及んで識別力の問題で無効にされるとは、逆に中国の商標審査のレベルに疑問を覚える話ですが・・・。

 

勿論、蘭州商業連合会も黙ってはいません。同業協会や、専門家と協力して訴訟のための証拠集めに奔走。その証拠は、当該商標が蘭州市さらには中国西部地区の経済発展にとって重大な意義を有するという論点をベースに、蘭州の代名詞である蘭州ラーメンは同市の文化が世界に向かっていくための代表であり、中国西部地区の地域ブランド創出や国際化をけん引する存在になり得るといった観点から収集されたそうです。何と壮大な・・・。

 

それらを引っさげて2018年8月20日に迎えた北京知識産権法院での審理ですが、数々の証拠の存在が役に立ったかは報道では定かではなく、報じられているところによると、

  1. 文字部分については相変わらず識別力なしとの判断だが、麺を伸ばす職人を表した図形部分が商標の大部分を占めており、指定役務における識別力あり、
  2. 当該商標を使用している店舗が2000軒以上存在し、長期的且つ広範な宣伝も相俟って識別力を有するようになってきている、

などの理由から登録維持という判決に至りました(報道によっては、文字部分について権利放棄したことも登録維持の要因と言われています)。
原告が上訴するも、2019年1月24日に審理は終結し、原判決が維持されることとなりました。

 

全体的に複雑な本件ですが、最後まで特によく理解できなかったのは、「地名が他の意味を有する」とはどういうことかという点。
今回の件を見ると、例えば「さくら」という商標を登録しようとして、たまたま地名の「佐倉」(千葉県佐倉市)と「桜」の両方の意味が考えられる、というのとはどうも感覚が違います。
そこで中国の商標審査基準を見てみると、今回の事例が該当する、「地名が他の意味を有し且つ他の意味のほうが地名としての意味よりも強い」ものとして以下のような例が挙がっていました。

 

(以下、「商標審査標準」より抜粋)

 

中国における地名商標

 

かなり限られた例しか載っていませんが、これらの場合は行政区画としてよりも有名な山や川などの自然景観の名称として、或いは歴史的建造物の名称として、という意味合いが強いということでしょう。勿論、これ以外にも考慮され得る例はあると思いますが、蘭州の「牛肉ラーメンにおける独特な文化的内包」という主張に至っては、そのような漠然とした概念が「地名よりも強い意味を持つ」主張として認められるのかが実に分かりづらいです(本件では最初の審理において認められていますが)。筆者としては、これについてだけでもとことん研究したくなるような話ですが、日本の皆様の中国での商標登録にはあまり関係のない話なので、このあたりにしておきましょう。

 

今回、本当は同じように地名を含む「重慶火鍋」の商標登録の話も書こうと思ったのですが、これはこれでまた複雑なので、また機会があったらということにしておきます。また、外国地名の審査事例についても興味深いトピックがあったらまたその機会に是非。

 

(2019/2/22 日本アイアール A・U)

関連リンク

中国商標専門サイトのトップページへ